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私設北海道開拓使の会メールマガジン『異論・暴論・創論』Vol.2

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 ■ 題名 執筆者

 

            エア・ドゥはどこの会社だったのか

           ―地方に必要な司法のインフラ整備―

 

                                札幌弁護士会 弁護士 馬 杉 榮 一

 

           編集後記

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                            2003年1月20

 

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■□■□■□■□■□エア・ドゥはどこの会社だったのか■□■□■□■□■

                   ―地方に必要な司法のインフラ整備―

 

                          札幌弁護士会 弁護士 馬 杉 榮 一

 

 

 昨年6月25日道民の翼として期待を集めた北海道国際航空株式会社(エ

ア・アドゥ)が、御存じのとおり東京地方裁判所に民事再生開始の申し立て

をいたしました。私ども北海道の人間にとっては、非常に衝撃的な事件であ

りました。

 

 

 ◆道民7500人が株主

 

1996年に、東京と札幌間の航空運賃が値上げされました。往復運賃という

割引制度があったのですけれども、この制度をなくしてしまいました。航空運

賃が非常に高く感じられるようになりました。多くの道民から、なぜ運賃を上

げるのだ。東京―札幌線は、世界最大の航空路線。一番もうかっている路線で

はないか。それを値上げするというのはとても許せないと、激しいで怒りが沸

き起こって参りました。

 

 この状況の中で、道内の中小企業の人たちを中心に、既成の航空会社を頼ん

でもダメだ。新規の航空会社を立ち上げるしかないとの機運が出てまいりまし

た。浜田さんという養鶏業を営んでいた方を中心に、道内の中小企業家の方々

が寄り集まって、新しい会社、北海道国際航空株式会社、愛称エア・ドゥとい

う会社をつくったわけであります。

 

 北海道全域から多くの道民の方々が呼びかけに答えて株主になり4,000

名の株主が集まりました。支援持ち株会という会もできました。ここに結集さ

れる方が3,500名、合計7,500名の道民の方々から出資を得て、4年

前に第1号機が飛び立ちました。私も第1号機に乗せてもらいましたけれども、

非常に感動的な場面でありました。

 

 

 ◆利害関係者は地元に

 

 このエア・ドゥの破綻時の状況ですが、簡単に申し述べますと、非常に特殊

な会社になってしまっていたと言えます。

 

 2002年3月31日付の貸借対照表を見ますと、資本金72億円を全部食いつぶ

して、しかも足りないという状況になっております。1年間の損益の関係でい

いますと、営業収益120億円に対して、営業の費用は145億円。営業段階

で25億円もの損失を生じているという会社でありました。

 

 では、この会社がなぜやれてきたかといいますと、北海道の補助金収入、実

に18億4,700万円や北海道からの広告料収入、合わせて北海道から20

億円の補助を得ているということと、融資を北海道、札幌市等から得て、どう

にか最後の1年間飛んできたわけであります。このように極めて特殊な財務状

況になっておりました。

 

 次にその再生計画をみると、これもまた奇妙な形になっています。まず40

億円の再生債権が確定をいたしております。ところが再生債権者はわずかに4

名で、その4名は北海道が約18億円、札幌市が5億円、国が16億円です。

国の16億円というのは、飛行場使用料で、それが払えなくてたまっていって

しまったというものであります。唯一一般債権者らしい債権者は、商社の日商

岩井が4,000万円、これは開業時のリース契約の手数料だと思われます。

このように99%の債権額が官公庁という状況になっておりました。

 

 

 ◆民事再生、なぜ東京で

 

 従って、この再生計画で実は一番重要だったのは債権者対策ではなく、減資

の問題、すなわち4,000人の株主、3,500人の支援持ち株会の方々の

株主としての権利をなくす、全部減資をするというところにあったと思われま

す。

 

 なお再生計画をつくる場合に、スポンサーがいるか、いないかということは

極めて重要になってくるわけですけれども、このエア・ドゥにつきましては、

再生法の申請時におきまして、全日空の全面支援が決まっていました。

 

 このように道民4,000名から40億円の資本金を集め、また、北海道か

ら20億円の補助金等を受け、融資を入れますと、札幌市と合わせれば43億

円の血税が使われた、そういう会社の民事再生事件がしかし札幌の裁判所に申

し立てられずに、東京の裁判所に申し立てられたのです。しかもその申し立て

をした弁護士の中に、札幌の弁護士は一人もいない、こういう現況を、私ども

地元の弁護士はどう考えるべきなのでしょうか。

 

 エア・ドゥの今申し上げました特殊性から考えますと、私はこの会社が再生

をするのであれば、道民株主のみならず、すべての道民や市民の皆さんに説明

責任を果たして、そして、その道民、市民の皆さんから得たいろいろなご意見

をその再生手続の中に反映させるべきだったろうと思います。ですから、私の

個人的な見解としては、この事件はどうあっても札幌地方裁判所に出されるべ

きであった。そしてまた、一人でもいいですから、地元の弁護士が加わって、

北海道、札幌の考え方を反映させていくべきであったと思います。

 

 

 ◆大口債権者は地元、本店所在地でもない

 

 この再生手続は、先ほど述べましたように、債権者はたった4人しかいない。

そして、そのうち3者、北海道、札幌市、国は事実上事前に再生手続に賛成を

している。しかもこの3者で99%の債権額を占める。全日空というスポンサ

ー企業が既についている。そうしますと、会社の再生事件としては、必ずしも

難しいものとは思われない。リース会社、あるいは国交省との交渉、独禁法の

関係で公正取引委員会との交渉等があることはもちろんですけれども、再生手

続そのものに関していえば、必ずしも難しい事件という感じはしないわけであ

ります。にもかかわらずエア・ドゥの本店所在地ではない東京で再生事件が申

し立てられたのです。

 

 

 ◆企業再生、地域に必要なシステム

 

 さてここで、企業破綻・再生処理システムをどうとらえるかについて私の考

え方を少し述べさせていただきたいと思います。

 

 企業の破綻について、私たちは弁護士ですから、どうしても法律的な側面で

これをとらえるということが通常でありますが、もともと、一義的には経済現

象であります。資本主義経済システムでは、自由競争が確保されることが、最

も基本的な原理でありますから、そこで競争が行われる、その競争によって、

経済、あるいは社会が進歩する。経済用語的にいえば、品質の向上と価格の低

下をもたらして、社会が発展すると考えられているのであります。

 

 自由競争が確保されていれば、必ず勝者と敗者ということが出てまいります。

敗者は市場から撤退をしなければならない。この競争に敗れた企業は、破綻企

業として市場から撤退するといいましても、その有していた資本と労働力とが

この地上から消滅するわけではありません。その資本と労働力がより効率的な

ところへシフトしていく、そうして経済的な用語で言えば、最適な資源配分が

実現し、経済が発展することになるわけであります。そこで社会としては、そ

の移動が効率的になるようにいろいろな工夫を積み重ねて行くことになります。

その場面で初めて、企業破綻・再生処理システムというものが出てくるわけで

あります。

 

 

 ◆大都市シフトへの疑問

 

 現在非常な勢いで倒産数が増えている。それは、現在の資本主義の経済その

ものが、大きな変化をとげつつあるからだ。いわゆる経済のグローバル化、そ

れとIT化に伴う技術革新の非常な早さと、この二つが競争の激化を生み、多

くの企業破綻を生んでいるということになろうかと思います。平成に入ってバ

ブルが崩壊したから、今日本経済が困っていて、そして破綻が増えているんだ

というだけではとらえられない構造的な問題がある。そしてそれは今後10年、

20年のスパンでは続くだろうと思われます。この状況が当分の間続くとしま

すと、より一層企業破綻・再生処理システムは新しく整備され、改善されてい

かなければならないことになります。そして当然のこととして、それは日本全

国になければいけないということになります。東京や大阪や名古屋にあればよ

いのではなくて、福岡にも、札幌にも、仙台にもなければいけないのです。

 

 

◆札幌の司法システムは力不足か

 

 活力のある国を再生していくという観点から、21世紀の日本では地方分権

が必要である、1億2,700万の人間がすべて中央を向いていては、この日

本がもう一度活力のある国にならない、全国の地方自治体が地方分権を生かし

て、それぞれ力をつけて、新しい国づくりをしていくんだという主張が今強く

なっています。この地方分権が確立されるためには、地方の経済的自立という

ものがなければならないのであります。地方の経済的な自立があって、それに

支えられて初めて、地方分権というものができ上がって行きます。

 

 そうしますと、地方においても、信頼できる、その地方経済に合った社会経

済的インフラとしての企業破綻・再生処理システムも完備されていかなければ

ならないということに当然なるわけであります。

 

 しかし、このエア・ドゥの民事再生事件が東京の弁護士によって東京地方裁

判所に申し立てられた経緯を見ますと、どうも私達札幌の弁護士や裁判所が余

り頼りにされていないのではないかと、いや、そんなことはないというお話は

あろうかと思いますけれども、こういったエア・ドゥという特殊な企業、北海

道に根づくということで、一たんは飛び立った企業の、その再生手続が札幌の

地で行われていないということに関して言えば、やはり私達が力量不足と思わ

れているのではないだろうか、あるいは事実そうなのではないだろうかという

ことを、ここに生きる弁護士の一人として衝撃をもって感じざるを得ません。

すなわち企業破綻・再生処理のインフラが人的にも物的にも札幌、北海道にま

だ整備されていないのではないかという恐れがあることになります。

 

 

 ◆北海道の企業再建を道外依存とは

 

 一方、現在道内において100億円規模の企業再生ファンドの立ち上げの計

画があります。この新聞記事を見ますと「企業再建の実績豊富な公認会計士や

弁護士、コンサルタントら道外の人材を集める。」との内容になっています。

道外の人材が来ていただくことにつきましては、もちろん歓迎しなければなら

ないし、道外のすぐれた方々から学ばなければならない、それだけ私達がまだ

まだ力量不足であるということを率直に認めるべきであると、まずは思います。

 

 しかし、ここに「道内外の弁護士」と書いていただければ、それなりに納得

するのですが、しかし、道内外の内がないというのはどういうわけだ。エア・

ドゥもそうであり、またこの企業再生ファンドというのもそうであるというこ

とについては、私達は深刻にとらえなければならないと思います。そのうえで

私達は、率直に反省をしつつ、一体どういうふうにしていけばいいのか、どう

すれば企業破綻・再生処理システムをつくり出していけるのかを、考えていか

なければなりません。

 

 

◆破綻処理、地元で専任組織も

 

 今、北海道では四百数十名の弁護士が仕事をしています。札幌が圧倒的に多

くて、350ぐらいの弁護士数。しかし、東京では既に100人、200人のロー

ファームができています。北海道は全部集まっても、東京の一つか、二つのロ

ーファームと同じ程度の人数にしかならないという時代を迎えています。

 

 そして、私達は、扶助の事件をし、当番弁護士をこなし、あるいはいろいろ

な会務や法律相談をこなし、さまざまの事件をやりながら、しかし、必要不可

欠なこの企業破綻・再生処理システムというものにも取り組まなければならな

い。人数が非常に少ない中で、この問題もまたきちっと取り組まなければなら

ない。非常に難しい環境にあります。

 

 これらを個々の事務所、個々の弁護士が全部こなすことは多分もう質的にも

量的にも困難です。ではどうしたらいいのだろうということでありますけれど

も、そうなりますと、弁護士会内で一定の人数の集団がこの問題を受けとめて、

その問題をこなしながら各会員にリアルタイムにその知識、知恵、ノウハウを

供給していくようなシステムをつくっていかなければとても対応できない、そ

ういう状況にあると、私は思っています。

 

 かつて私も担当させていただいた子供の人権委員会や、民暴の委員会で、当

時まだ事件にみんなが慣れていない段階では、その委員会を中心としてノウハ

ウを集めて、そしてその上でそのノウハウを皆さんに提供する、あるいは事件

があっても担当の弁護士が慣れていないということであれば共同受任をする。

また事件が大きければ一緒にやっていくと、こういうシステムをその段階では

必要だということで、つくってまいりました。この倒産処理は、それらよりず

っと複雑であるだろうとは思います。けれども、私たち地方の弁護士がこれを

こなしていくためには、そういった組織、システムを弁護士会内につくってい

くという工夫をしなければ、前進がないと思います。

 

 

 ◆他地域と相互協力の時代

 

 その際に、私達は同時に全国の状況がどうなのかということを知らなければ

なりません。それをどうしたらいいかということを議論していた、ちょうどそ

のときに全国倒産処理弁護士ネットワーク設立の話が出て参りました。これは

すばらしいということで、札幌からも何名かこれに参加いたしました。

 

 この全国規模の倒産処理弁護士ネットワークを通じて、東京、あるいは大阪

での先進的な知識、知恵、ノウハウをぜひとも吸収させていただきたい。しか

しそれだけにとどまらず、私達は地方において、この吸収したものを生かし地

方に合った、地方型の企業破綻・再生処理システムもまたつくり出していかな

ければならないと思うのです。

 

 この東京と札幌、あるいは大阪と札幌という方向だけではなくて、札幌と名

古屋、あるいは札幌と福岡、あるいはこの3者、さらに仙台を入れた4者とい

うような、そういったつながりを持ったネットワークも二重の形でつくって行

く必要があると思います。

 

 札幌弁護士会が350人のひとつのローファームであるかのように、すべて

の事件に対応できる相互協力体制をつくることが、これからの時代の地方の弁

護士、弁護士会でのひとつの方向であり、地方の時代の司法関係者の社会的責

務だと考えるのです。

 

                                                                 以上

 

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  ■ 編集後記

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 創刊から2週間、早くも第2号配信の運びとなった。

 

 この間、暖かく、かつ厳しいご意見を各方面よりいただいた。

  ひとつご紹介する。

 

   常日頃から思っていましたが、北海道人は意外に自由自立の精神が少なく、

   砂を噛んでも内地から自立すると言う根性がありません。

   そのような人が少ないと思います。

   クラーク博士の精神を持っている人が出てしまいました。

  「北海道開発庁」は不要と言う人もいません。

 

 ‘92年、新千歳空港開港の折、ふと耳にした関係者らしき男性のことば。

「花火を打ち上げても、その後が盛り上がらないんだよね、北海道は。」

エア・ドゥ破綻の日、そして、上のご意見が寄せられた日、このことばが思い

出された。

 

 エア・ドゥ破綻の真相解明を地元司法の手で行う、その意義は、非常に大き

い。「失敗に学び、より大きく成長する。」その機会を、取り戻せるように。

そのためには、司法はもちろん、道民全体が粘り強く、かつ謙虚に。

 

                                                                (玲)

 

   エア・ドゥ関係HP

   http://www.airdo21.com/

   http://www5.hokkaido-np.co.jp/keizai/airdo2002-2/

   http://member.nifty.ne.jp/carib/hokuto/sky.htm

 

                                                                 

 

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WEB】   http://www.kaitaku.gr.jp/

MAIL     yabe@venus.fujijoshi.ac.jp

 

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【編集】      矢部玲子

 

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