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私設北海道開拓使の会メールマガジン『異論・暴論・創論』Vol.45
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 日本再生のきめ手―――無責任資本主義からの離陸
                      石黒直文(当会理事長)


  編集後記

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               2009年1月6日

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旧臘、一国の首相が財界首脳に対して雇用確保を要請した翌日、大分
キャノンを中心に1800人の派遣労働者の雇い止めが発表された。この
ことの社会的責任を問われた日本経団連の御手洗会長は、記者団に
対して「誤解だ。広報に聞いてくれ」といって会見を打ち切った。誤解と
いう意味は、首を切ったのはキヤノンじゃない、派遣会社だ。また、派遣
契約を終了したのは子会社だ。キヤノンには答える責任がないということ
なのだろう。
この話は、サブプライム問題と似たところがある。最初にローンを組んだ
金融機関は、そのローン債権を証券化して第三者に売り払ってしまった
から、債務者が支払不能に陥っても全く関係がない。さらに、その債券を
購入した金融機関も、債権取立ての専門業者に売り払ってしまったから、
厳しい取立ての非難を受けることはない。いずれにしても最初に金を貸
した金融機関には、全く責任がない仕掛けなのだ。
 
1933
年、北大卒の医師御手洗毅は、山一證券勤務の内田三郎とその義兄
の吉田五郎とともに、それまで世界に君臨していたライカ,コンタックス
に対抗する日本製のカメラを創り出す志を抱く。そのカメラの名はKWAN
ON(
観音)1942年、御手洗は、病院勤務をしながら請われて社長に就任
する。もちろん、御手洗の経営者としての最大の功績は「打倒ライカ」を
目指し、それを苦心の末、達成したことだ。いいカメラを作るには、優秀な
技術者を雇い、従業員が心を合わせなければならない。彼の経営の基礎は
「家族主義経営」だった。彼は、戦後いち早く労働組合結成を援助し、持
家組合や永年勤続表彰の制度を作った。また、利益を資本、経営、労働
に三等分する「三分配制度」を確立した。彼は「キャノンで一生過ごして本
当によかったという会社にしたい」と常々語っていたという。この御手洗毅
は、現在の御手洗冨士夫会長の叔父である。
 
1917
年、現在のパナソニックの前身、松下電気器具製作所という絶縁体
の練り物工場が誕生した。その企業の成長を助けたのは住友銀行西野田
支店だった。戦後間もない1946年、焼け跡のなか、後のソニーとなる
東京通信工業が誕生した。この海のものとも山のものともつかない企業
を資金面で助けたのが、帝国銀行のちの三井銀行だった。
つい最近まで、銀行は、お取引先と喜びも悲しみも共有してきた。企業は
生き物だから、健康なときばかりではない。病気になることも怪我するこ
ともある。しかし、お取引先の企業が、困難を乗り越えて、成長、発展す
るとき、銀行もその配当を受けることができる。つまり、銀行の成長発展
は、第二、第三の松下、ソニー、キヤノンを見出し、それを育て、共に繁
栄していくことによってのみ達成できると考えてきた。大事なお取引先を
証券化して市場で叩き売るなどとは夢にも考えなかった。
 
しかし、時代は変わった。人間よりも市場だ。義理人情よりカネだ。労働
力は必要なときに市場で調達すればいい。必要がなくなればいつでも解
雇することができる。融資先も証券化して市場で売却すればいい。売却
で得た資金で、また融資先を見つけることができる。第一、融資先の財
務状況を考えたり、悩んだりするような無駄な努力を省くことができる。
さらに言えば、企業そのものも市場の売買の対象だ。弱みに付け込んで
競争相手を買収することもできるし、逆に自らを顧客、従業員つきで、
きれいさっぱりと売り払ってしまうこともできる。
 
1918
年、成金ブームの最中、芥川龍之介は短編「蜘蛛の糸」を書いた。
暗闇の地獄の血の池で、もがき苦しんでいた「かんだた」という男の目の
前に一筋の蜘蛛の糸が下りてきた。これに伝わっていけば地獄から逃れる
ことができる。上手くいけば極楽に行くこともできる。必死に蜘蛛の糸を
手繰って中途まで登って下を見ると、血の池も針の山もはるかかなた。も
う少しで地獄から抜け出せるぞ。しかし、ふと気がつくと数限りもない罪人
たちが、アリの行列のように、あとを追いかけて蜘蛛の糸をよじ登ってくる
ではないか。このままならこの細い蜘蛛の糸は切れてしまう。「かんだた」
は思わず大声を上げた。「こら罪人ども、この糸はオレのものだ。下りろ、
下りろ」その途端、蜘蛛の糸はぷつりと切れ、「かんだた」は、まっ逆様に
暗闇のそこへ消えた。
 
小泉政権下、日本経済のすべての部門が地獄の底でもがき苦しんでい
たとき、政府・日銀は、まず、経済のエンジン部門である金融と大企業に
蜘蛛の糸を降ろした。これらのリーダーたちは、労働者や消費者、預金
者の肩や頭を踏み台にして、天から降りてきた蜘蛛の糸を頼りに、必死
に地上に這い出し、極楽の入り口にたどり着くことができた。ここまでは
政府・日銀の戦略は間違っていない。
しかし、そこからが問題だ。次に政策当局や経済のリーダーがやるべき
ことは、まだ地獄の底でもがいている人々を引き上げるために、蜘蛛の
糸を降ろすことだった。まだ地獄にいる人々は、銀行や企業のお客様で
あり、ともに働く仲間なのだ。これらの人が地獄から抜け出せなければ
経済の真の回復はない。再び全員が地獄へずり落ちてしまう。ところが、
先に上がった人たちは、何千、何万と必死にあとから上がってくる人々に
恐れをなして、蜘蛛の糸をぷつりと切ってきってしまったのだ。ぶら下がっ
ていた人が、再び、暗闇の底に落ちるのは間違いない。しかし、お釈迦様
は、自分だけ助かろうと思った「かんだた」もまた、まっ逆様に地獄の底に
落ちていくのを残念そうにじっとごらんになっていたと「蜘蛛の糸」には
書いてある。
 
百年に一度という世界に危機の原因は、はっきりしている。ひとつは覇権
国家の傲慢が生み出したバブルの崩壊だ。この修復には時間はかかるが、
方向と方策は示されている。日本経済の立ち直りも、条件は厳しいが
マクロ的には、やり方がないわけではない。
バブル崩壊以降、日本は喪われた10年とか20年とか言われてきた。この
期間、喪われた最も大きなものは、企業経営者のエトス(行動規範)だ。
戦後日本が、廃墟の中から立ち直った時代持ち続けてきた経営理念だ。故
森嶋通夫教授の遺言とも言うべき「Japan at A Deadlock(邦訳=なぜ日本
は行き詰まったか 2004)」で、この日本の政治経済のリーダー達のエトス
の喪失が、いまの日本経済の行き詰まりの根本原因だと明確に指摘して
いる。
 
現在よりもっと厳しい敗戦後のどん底から這い上がった日本の経営者が
考えていたのは松下幸之助にしても、御手洗毅にしても、自分だけが助
かればいい、うちの会社だけが儲かればいいという思想ではない。企業は、
従業員、消費者、仕入先、さらに地域社会や自然環境の支えがなければ
生きていけないし、利益を上げることはできない。逆に言えば、これらの
企業を取り巻くステークホールダーに喜んでいただける企業になって始めて、
生き残り、儲かる会社になることができるのだ。会社が儲かれば、結果と
して、株価が上がり、配当も増え、株主に喜んでいただける会社になる
ことができる。その逆は真ではない。自分だけ儲けたい、儲けは全部自分
のものと考えている会社の製品を誰が買うだろうか、そんな会社の従業
員が喜んで働くだろうか。
 
いま、日本の経済人に求められているのは、繰り返して言うが、人として、
リーダーとしての責任感なのだ。無責任資本主義の幻想を振り切って、
日本の勃興期の優れた企業経営者が等しく持っていた経営理念に立ち返る
ことだ。その原点に戻らない限り、日本の再生はない。トヨタの会長であり、
日本経団連の初代会長であった奥田碩氏もかつて「従業員の首を切るな
ら経営者は腹を切れ」といっていたではないか。


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編集後記
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                        2009年1月6日

明けましておめでとうございます
本年もどうぞよろしくお願いいたします。



本州の実家はやっぱり暖かかった、という声も多い仕事はじめ。私も
含め道外出身者は帰省時に飛行機を利用することになるけど、年末
年始は割引がなかったり混雑したりと予約が取りにくくて超高い!と
先日本州実家組で航空券代についてのぼやき大会を開催。
  
この不景気では千円でも安ければありがたいのだけど、女子で意見が
一致したのが、CA(最近はスッチーではなくキャビンアテンダントっちゅ
うんですな)の存在。お茶も新聞も機内販売もステキな笑顔もいらんので、
CAサービスありませんほっときます席というのを設けてくれて千円安か
ったら絶対そっちに座る説。そもそもCAさんの仕事は脱出とか危機の時
にこそ役にたってもらいたいと思うので、真面目な話、か細い女子よりも
屈強な男子の方がいいんじゃないのではないだろうかっ。
    
ビジネスでも女子の利用が増えている昨今、航空業界も是非オンナゴコロ
をくすぐるサービスの採用を検討していただけないもんだろうか。例えば、
飛行機でもCAが女子ではなくて韓流スターばりの美男子がニッコリ笑顔で
サービスしてくれるんだったら、もう千円払いますというご婦人も結構いるん
じゃないだろうか。などと言いながら、混んでる年末年始は帰省は避けて
本州より競争相手がおおらかなデパートの福袋をまんまとゲットしてご機嫌
な北海道のお正月なのでした。
 
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