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私設北海道開拓使の会メールマガジン『異論・暴論・創論』Vol.5
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INDEX

 ■ 「君たちは大変だねぇ〜」
  ― 地下鉄の累積赤字を考える ―        吉岡 宏高

 ■ 編集後記

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                     2003年4月21日

 □■□■□■  「君たちは大変だねぇ〜」  ■□■□■□■
       ― 地下鉄の累積赤字を考える ―      
                          吉岡 宏高

 『僕らはほぼ確実に退職金をもらえるだろうけど、君たちは大変だねぇ〜』。
これは、1986年に私が社会人になって最初に入った会社で、入社早々に複数の先
輩たちから浴びせられた言葉だった。その会社は、私が入社した年に創業70周年
を迎えた業界トップの老舗企業で、1950年代末から1960年代半ばに業界全体がブ
ームに乗っていた頃に大量採用した先輩たちが、それこそゴロゴロしていた。入
社3年目に北海道の工場から異動した先は、東京本社の総勢5人からなる新規事
業担当部門だった。25歳の私以外は全て50歳代で、本物の部長の他に、副部長
(部長待遇)と次長(部長待遇)がおり、何のことはない4人の部長の下で平社
員は私1人しかいなかったのである。
 その会社は、売上高の90%を占める主力製品が、構造的な需要減退と輸入品と
の競争によって、ジリジリと売れなくなりつつあった。ただ、国による盤石な業
界保護政策がある限り、一挙に経営が悪化することはないだろうという漫然とし
た雰囲気が会社を支配していた。私のいた新規事業部門は、主力製品頼みの経営
を何とかして打破しようという意図で作られたのではあるが、少しでもリスクが
ある提案をすると(リスクのない新規事業なんてないはずなのだが…)、「時期
尚早」「成功する確証がない」と、他部門の管理職のみならず重役陣にも総スカ
ンを食った。あげくの果てに必ず出てくるのは『僕らはいいけど、君たちは大変
だねぇ〜』。この一言で、新規事業プランの頓挫は決定的となる。
 私は、30歳を目前に、この天下泰平な会社に見切りをつけて飛び出した。その
後、この会社は、私がいた頃に比べて、売上高は1/2、経常利益は1/10になりな
がらも、まだ残っている。しかし、今や課長代理クラスになっている昔の同僚は、
会うたびに「大変だぁ〜、苦しぃ〜」を繰り返し、反転復活の兆しは一向に見え
ない。


 この斜陽産業の会社の話は、今の日本を覆う雰囲気に通じる所が多い気がして
ならない。来年40歳を迎える私だが、年上の先輩たちから「君みたいな"若手"
…」「君はまだ"若い"のだから…」と、相変わらず言われ続けている。私が社会
人になって以来、平均寿命も定年も伸び続けのだから、経済や政治の現役社会か
ら卒業して第二の人生へとステージ転換すべき人たちが、私たちの世代の上に重
しとなって累積し、相対的に見て私はいつまでも"若手"と呼ばれる訳だ。だが、
さすがに40歳代に入ってまでも"若手"でいられるはずもなく、社会を支える主体
層として意識せざるを得ないだろうと痛感している。そんな立場を意識して、ふ
と今の世の中の現状を冷静にみつめた時に、頭の中でリフレインされるのが、あ
の『僕らはいいけど、君たちは大変だねぇ〜』の一言である。
 私たちの世代は、大量の高齢者を養わなければならない世代層である。世代間
扶養は、社会的な義務の一種として頭では理解はしつつも、どうも釈然としない。
同世代の友人と話してみても同じような心境の人が多く、頑張ってやろう!とい
う気が心から起きないのは、私だけではないようだ。経済的にも社会的にも、よ
くぞこれだけ世の中をグチャグチャにして頂いた状態で、「あとはよろしく、年
金もよろしく!」と言われたって…。じゃ、頑張ってみるかと少し歩み始めたら、
過去の成功体験に裏打ちされた"親切な助言"(これからの時代にフィットしてい
るかどうかは極めて疑わしい)や、強固に生き残っている過去の制度や仕組みが、
巨大な山脈のように横たわり行く手を阻む。
 太平洋戦争の終結によって同じような状況に置かれながら、日本の再建と発展
に向けて驀進した昭和一桁生まれの私の父の世代に対して、私は強い尊敬を抱い
ている。唯一の、しかし大きな違いは、太平洋戦争後の混乱時には、世の中をグ
チャグチャにした人は責任を負って退場させられたし、外圧であったにせよ制度
や仕組みは大転換した。今は、ほとんど誰も責任を負って退陣せず累積し続け、
制度や仕組みは強固に残ったままである。そして、空耳かもしれないが…時折
『僕らはいいけど、君たちは大変だねぇ〜』が聞こえてくる。


 今回の札幌市長選で争点の一つとなった地下鉄の赤字問題は、「君たちは大変
だねぇ〜」の典型例ではないかと思っている。
 札幌地下鉄は、約4,000億円の累積赤字が大問題としてクローズアップされつ
つある。しかし、帳簿上の赤字よりも、もっと深刻なのは借入金である。赤字額
は市広報で広くPRされているが、決算書を子細に積算しないと全容を掴むこと
ができない借入金残高は、実に約5,000億円にものぼっている。市の一般会計規
模が約8,000億円だから、市財政の本体に迫る額の借入金を抱えていることにな
る。
 そして、この借入金によって、年間約380億円の営業収益の58%に相当する約
220
億円の支払利息が発生している。もう少し乗車人員が増加すれば事態は解決
するような広報活動が展開されているが、実は滝壺の一歩手前にまで追い込まれ
ているのが実態だ。
 1971年から営業を開始した地下鉄は、今では3線48Kmのネットワークにまで拡
大し、市民生活に欠くことができない存在となっている。その建設費(名目)は
7,000億円(145億円/Km)、現在の物価水準に補正(実質)すると約1兆600
円(220億円/Km)となる。このうち約1/2は国から補助されたが、残りは借入金
で調達して、経営しながら返済せざるを得ない。もともとの建設単価が高いこと
から、国に半分出してもらっても、借入金の額は膨大なものとなった。それでも
建設が続いていれば、国から確実に補助金が出ることから何とか資金を回すこと
が可能だったが、1999年の東西線琴似〜宮の沢延長を最後に新規建設はなくなり、
一挙に資金繰りの問題が噴出しはじめた。また、建設したいがための結論が先に
ありきという輸送人員予測を、行政的な建て前から否定できなかったことも、事
態の深刻化に輪をかけた。
 借入金の主体は、財政投融資などを原資とする政府系機関からのものが大半で
あることから、高金利時代はメリットがあったが、低金利時代に入ると反対に大
きく足を引っ張ることになる。現在の借入金残高約5,000億円のうち、その1/3
5%以上の高利借入金であり、市中からの低利借入金に借り換えようとしても、
国としても財政投融資が破綻してしまっては困るので、相変わらず高い借入金を
押しつけられている。いわば、"国のサラ金地獄"に陥っているような状態にある。


 地下鉄によって市街化が促進され、札幌は人口増加を達成してきた。もし仮に、
東急電鉄や西武鉄道がやったような、市街化と交通のセット開発の発想を適用し
てみたら、どうなるのだろうか。
 農地から市街地へ転換した郊外部20駅で、駅から半径500mを地下鉄開通による
直接影響圏とすると、その面積合計は1,570haとなる。農地と現況市街地との地
価の差を、おおむね10万円とすると、1,570haの価値増分は1兆5,700億円である。
これによる税収増加は、固定資産税と都市計画税だけ捉えてみても、年間約270
億円に達する。一方、市街化に必要な道路・公園・上下水道などの基盤投資は、
ha
あたり6,000万円程度で済むことから、1,570ha1,000億円(=@6,000万円×1,
570ha
)程度となる。
 過去20年間のレンジで集計してみると、地下鉄建設による税収増は、バブル経
済時の一時的な土地評価の上昇や駅勢圏外の上昇分を除いて確実に見積もっても
5,400
億円+αに達する。そのために必要な費用は、基盤整備の1,000億円である
から、その差は4,400億円となる。
 この4,400億円は、地下鉄がなければ達成されなかったのだから、必要な費用
として"最初から"地下鉄経営に還元されなければならなかったはずだ。小遣いと
して使えたのは、地下鉄によって出来た市街地で展開される事業から生まれる事
業所税や建物固定資産税、生活から生まれる住民税の増分だけだったのに、現実
には元手として地下鉄経営に還元しなければならない土地税収増加分4,400億円
も一緒に使ってしまったのだ。
 そのため、約5,000億円にものぼる借入金だけが残ってしまった。さらに皮肉
なことは、借入金が5,000億円台になってから、市の一般会計から毎年150億円前
後を地下鉄会計に繰り出すようになったが、ここまで借入金が増えては焼け石に
水の状態で、無限地獄のように出血が続いている。営業収益の2/3近くを利払い
に充てている状態は異常であり、5,000億円の借入金を残して地下鉄経営は早晩
破綻せざるを得ないだろう。
 借入金残高が5,000億円に達する前の早いうちに、問題を顕在化し解決策を打
つタイミングが何度もあったはずなのに先送りを続けてきた。地下鉄建設によっ
て得た税収増分は、市内各所の公共投資にバラまいて使ってしまった。在任中に
判断を先送りした人たち、自分の住む地区にあれこれとおねだりした人たち…今
は現役を引退してしまい免責状態にある人たちから聞こえてくる声は、空耳なの
だろうか。『僕らはいいけど、君たちは大変だねぇ〜』。


 いささか妄想的にもなってしまったが、私たちの世代の持つ、何とも言えない
絶望感の根源は、こんな所にある。これが会社だったら、そんな所からは逃げ出
せばことが済む。しかし、海外に高飛びするのならまだしも(今の20歳代などは
フットワークが良く羨ましくなるが…)、この地で生まれ育った者としては、そ
う簡単に逃げ出すことはできない。ともすればマイナーで絶望的な気分になりが
ちな中でも、重圧をはねのけて、新しい価値観を具体の政策として組み立てて、
新しい流れを作っていかなければ、ますます事態は悪化する一方だろう。
 人口ピラミッドの最も手薄な年齢層として、なし得ることは何か。数を頼みに
できない状況の中では、良いビジョンと筋のいい政策を手がかりに、共感してく
れる人をこちらから選択的に再構成するしかないのだろう。そんな動きを実現し
たいと思って、7年前から市民シンクタンクとして機能することを目指したNP
O活動を実践している。札幌の都市交通を切り口にした活動だが、交通の持つ多
面性から、いろいろな分野の方との接点が拡がってきた。
   →詳細は…
    市民施策研究グループLRTさっぽろ
     http://www.lrt-sapporo.gr.jp/
 「上司が部下を評価するには3年かかるが、部下が上司を見切るのは3日でい
い」とは、昔から言い古されてきた言葉だが、案外こんな俗なフレーズが、挫折
しそうな時の支えになっていたりする。下から見上げてみると、『僕らはいいけ
ど、君たちは大変だねぇ〜』とささやく人たちの中で、そんな言葉とは無縁な高
い志を持った先輩たちの顔がクリアーに見えてくる。まだまだ世の中捨てたモノ
ではないぞと思う。でも、私たちから選択的に手を差し伸べないと、一瞬のうち
に見えなくなってしまう。自分たちが埋没してしまわないためにも、何をしたい
のかという考えだけは常々磨いて、アピールして行くしかないのだろう。

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 ■ 編集後記
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                     2003年4月21日 
新しい北海道知事が決まった。
周知のとおり新知事は道産子ではない。そのことが候補者選びや選挙戦の争点に
もなったようだが、私のような移住者から見れば、新参者だからこそ見えるもの
出来ることがあるのではとも感じられる。
「北海道に住むことがひとつのステータスになる」「夢のある北海道」……、新
知事が掲げるキャッチコピーは北海道移住者・移住希望者にとっても耳障りのよ
いものだが、現実の北海道は課題が山積みである。公共事業依存体質からの脱却
と雇用の場の確保が両立できるのか、新産業育成等の政策に取り組む財源はどう
するのか相変わらず中央依存なのか、市町村合併などの問題を前にして道と市町
村の関係をどうするか、等々。また中央官庁出身で自民党推薦というバックグラ
ンドから、土建業界などからハコモノ中心の公共事業復活というプレッシャーを
受けることも懸念される。そのようなプレッシャーに負けず、これまでのような
調整型でなくビジョン先行型の道政を目指してもらいたいものだ。
新知事は北海道経済産業局長時代、ITとバイオによる産業振興を掲げておられ
たが、例えば北大の理工系卒業生の半数は道外に流出しているという事実をあげ
てみても、新産業の創出・育成は容易とは言えないだろう。人を惹きつける北海
道、道内外を問わず夢と志を抱く者なら住んでみたいと思うような北海道づくり
を新しい知事に期待したい。
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【編集】太田 明子

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