2004年度 北海道U・Iターン・フェアでの
石黒理事長の講演記録

『移住に成功する人の条件』



北海道U・Iターン・フェアで講演する石黒理事長  1957年、京都育ちの女房と一緒に関西から、北海道の滝川という町に移住して来ました。もうまもなく北海道に来て半世紀になります。私も妻も北海道には親戚も友人もいませんでしたが、いまや、ここが本当の故郷、終の棲み処だと思っています。

  ■五つの日本一が生まれた

 今年、北海道で嬉しい話がありました。北海道が日本一になった話です。五つあります。

 その第一は、駒大苫小牧高が甲子園で日本一になったことです。なかでも嬉しいのは選手の全部が純粋の道産子だったことです。私は、自分が生きているうちに、「道産子チームが甲子園で優勝する、道産子の総理大臣が誕生する」という二つの夢がかなえられればいいなあと思ってきました。その夢のひとつが、今年みごとに実現しました。

 第二は今年プロ野球の日本ハムが北海道に来て、移転後観客動員増加日本一を成し遂げたことです。これはもちろん新庄や小笠原選手の魅力もあり球団の努力もありますが、道民の「北海道にきたら仲間だ。助けてやろうじゃないか」という気持ちの表れといえます。コンサドーレも残念ながら成績は振るいませんが、道産子チーム応援のサポーターの熱気は他の地域に少しも劣りません。

 第三は旭川の旭山動物園が東京の上野動物園を抜いて入園者数日本一を獲得したことです。旭川の人口は30万、それが1000万の東京を抜いたのです。珍しい動物がいるわけではありません。どこにでもいるペンギンとアザラシ。しかし、工夫と努力によって東京に勝つことができるという実績は私たちに大きな希望を与えるものでした。

 第四はYOSAKOIソーランが、踊り子4万人、観客200万人を超え、日本の踊りを中心にしたお祭りイベントで日本一となったことです。このイベントは10年前、長谷川岳君という愛知県出身の北大生が始めたものです。余所者の若者の点した小さな火が日本一の炬火となったのです。

 第五は日本経済新聞の中国人に対する調査で、北海道が日本で一番訪れたい観光地に選ばれたことです。いま、日本に訪れる外国人観光客の主力は韓国、台湾ですが、中国本土の大群が日本に向かうのはもうすぐです。その中国人に一番人気が高いのがわが北海道というニュースは、観光立県宣言をした北海道にとって最大のグッドニュースでしょう。

 いま、北海道は率直に言って困難な時期を抜け出していません。日本列島の中で一番悪い状況にあるといってもいいでしょう。しかし、そのなかにあって日本一を果たした出来事が五つもあるのは私たちに勇気を与えます。その多くが移住者や若者の力が生み出したものであり、また、その裏に移住者や若者をバックアップする道民の温かさがあったことを知るのです。

 今日ここにお集まりの皆さんは、北海道に夢と希望を持っておられる方でしょう。私は皆さんにおいしいことやうまい話をいうつもりはありません。むしろ北海道の状況は極めて厳しいといいたいと思っています。しかし、その困難ななかにあって日本一を達成した事実が厳然と存在することも同時にいいたいのです。


北海道U・Iターン・フェアで講演する石黒理事長

  ■北海道で就職をする

 北海道での就職に成功する条件が三つあります。

 その第一は北海道が好きだということです。そんなことは当たり前じゃないかと思われるかもしれません。実は、皆さんが働きたいと思っている会社は、皆さん以上に北海道を愛しているのです。今年、北海道経済同友会が面白い調査結果を発表しました。北海道の企業理念が全国と比べて明らかに違っている点があります。それは道内企業の多くが「北海道が好きだ。北海道の役に立つ企業になりたい」という理念を高く掲げているのです。北海道の企業は、北海道が本当に好きだという人物が欲しい。本当に北海道が好きだ。少しぐらい辛いことがあっても「逃げない、辞めない、休まない、ねばり強い」熱い思いを燃やしている人物を求めているのです。

 第二に、会社に役に立つかということです。北海道に移住を希望している方の多くは転職でしょうから、新卒者にない経験や技術、知識をどれだけ持っているかを問われるのは当然のことでしょう。ご承知のとおり、一般的に言って北海道の就職状況はよくありません。北海道の有効求人倍率は0.4、つまり就職希望者10人に対して求人4人という状況です。しかし、情報技術者、機械技術者、営業職、専門職などの何らかの技術、知識を持っている方のための札幌人材銀行(人材誘致コーナー)の今年度に入っての有効求人倍率は1.72倍、実数でいうと就職したい人が3800人に対して求人が6600人もいるのです。私は、免許や資格でなくても自分の経験や経歴がはっきり示されれば道は開けると思います。「これができます。こういうことが得意です。だから役に立ちます」がそういう人を企業は心から求めています。

 第三に新しい文化を持つということでしょう。企業が移住者に求めるのは、北海道の企業に無い新しい文化の担い手としての機能であり、従来の会社の風土を一変させるような革新的な考え方の導入なのです。企業が、費用もいとわず、社員を転勤させたり、異動したりするのは新しい血液を入れ替えるることによって組織が活性化し、新しい視野が広がることを期待しているからです。変わらないなら転勤させないで同じ人にやってもらうほうがずっといい。しかし、変化の時代従来どおりの視野や視点では会社は生きていけません。私どもの会を通じて北海道の企業に就職した人が高く評価されるのは「あの人が来て会社が変わった」からです。そういう話を聞くことはたいへん嬉しいことです。


  ■企業を起こす

 会社に就職するだけでなく、独立して自分の会社や事務所を立ち上げるという移住の道があります。私どもの会員のなかにもたいへんな苦労をされながら見事に成功している事例がいくつかあります。ぜひそれらの方から苦心談を聞いてもらいたいと思っています。

 私どものサポート企業のなかに世界一の自動車部品メーカーがあります。「えっ。北海道に世界一の自動車関連企業?」とびっくりすると思いますが、この会社はクラッチ板を製作するダイナックスという会社です。この会社は、いまから30年前に大阪の大金製作所がアメリカのRM社と提携して千歳に立地しました。最初は日産だけでしたが、トヨタをはじめ日本の自動車メーカーはもちろん、世界の有力メーカーとすべて取引があります。

 率直に言って北海道に自動車部品工場を設立することは口で言うほど簡単なことではありません。金型工場が無い、原材料の下請けが無い、技術者がいないといった生産上の困難に加えて、納入先がすべて本州、しかも関東、中部といった1000キロ以上も離れた先なのです。ご承知のとおり、いま自動車部品の納入はジャストインタイム方式、多くても、少なくても、早くても、遅くてもダメ、注文どおりピッタリという厳しいものです。海を越えて1000キロ以上も遠くの工場のこの要求をみたすことがいかに困難かは容易に想像できるでしょう。

 これらのすべての困難を乗り越えてダイナックス社は世界一の工場になりました。移住者であり、この会社の創業者である正木さんは「北海道に来てよかった。北海道が大好きだ。北海道に役に立つ事業をしたい」といつも言っておられます。北海道に新天地を求めて、企業を起こそうと志している人に大きな勇気を与えてくれる言葉です。

 なお、北海道庁の経済部では、知事の公約である道外からのベンチャー起業に対しての支援事業を新年度から始めます。悩んでいる人は相談してください。

 最後に私どもの会の宣伝をさせて下さい。いまから10年前に、北海道に移住する人を支援し、北海道に新しい文化を創造する目的で多くの方々のご協力得て発足しました。会員登録数は約3000名、すでに移り住んだ方が300家族以上います。「私設」と名づけたのは、何でも行政に頼るのは止そうということです。「開拓使」は北海道開拓のはじめ、先に来た者が後に来た者を助ける、助けられたら今度は次に来る者を助けるという精神に帰ろうという意味です。

 もちろん民間の小さな団体ですから大きなことはできません。しかし、みんなで助け合っていこうという熱い志を持った仲間がたくさんいます。楽しい連中もいっぱいいます。どうか北海道が好きな方、いつかは北海道に住みたいなあと思っている方は、是非仲間になってください。

2004年10月24日(日)
池袋のサンシャインシテイで行なわれた北海道UIターンフェアにて
石黒直文(当会理事長)

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